いつからか夏は苦手だった。
暑いし汗かくし。どこもかしこも人が多いし。
常日頃から自分の固定観念や余計な自意識を壊してくれるものこそが愛だと信じている性分なのだが、まさしく苦手だったはずの夏が過ぎ去ってしまうのがどうしようもなく惜しくて、思い出の曲を口ずさんでは泣いてしまう程に意識が変わってしまった。
20年生きてこんなにも楽しくて短い夏ははじめてだった。
くらくらしてしまうほどの気温も、
雨上がり特有の息が詰まるような湿度も、
じりじり焼けるような日差しも、
鼻の奥に刺さる制汗剤の匂いも、
例年よりワントーン暗くなってしまった自分の肌も、
見る度伸びているような気がした君の短髪も、
袖を余らせていたお下がりの浴衣姿も、
折角だからと沢山飲んだけど最終的には飽きてしまったコカコーラも、
全力で踊ったために君を全く観ることができなかったあの曲も、
ペンライトの海を幸せそうに眺める表情も、
メンバーに対する愛おしげな眼差しも、
真ん中に立つ年長者としてみんなを引っ張る姿も、
この夏のすべてが大切で愛おしくて忘れたくないのだ。
世間一般では夏のノスタルジーを線香花火に重ねることが多いように思えるが、ウチらのハタチの夏はそんなもんじゃないもんねー?と心の中のギャルも言っている。ギャルってこんな感じなのか知らんけど。なんにせよ今年の夏は花火バズーカくらいの火力をもっていた。これまでの20年間胸の奥に隠されていた不発弾が爆発したかのように。
この夏は違うって思わせてくれる何かをずっと求めていた。
正直な話をすると、実際に会場に足を運ぶまで半信半疑だったけれど、君は正真正銘その「何か」だったし、あるいは何もない夏を撃ち殺してくれたヒーローでした。
夏の果てまで駆け抜けたいという感情を抱く日が来るだなんて、ろくにバイトもせずだらだらと夏休みを消化していた去年の自分からは全く想像がつかないし、実際家族は過去一で予定が詰まっている私のカレンダーを見て引いていた。
自担の10代最後の現場に居合わせることができなかったことのみが心残りではあるのですが。それ以外は最高の夏を全力で過ごすことができたと思う。
私にとっての最高の夏が、あなたにとっても「良い夏」で、「楽しかった」という感情を共有できていたのならこの上ない幸せです。
春に会えた君と、夏の果てまで駆け抜けた君と、秋も冬も楽しく過ごせますように。